決断力 著:羽生善治
将棋界において生ける伝説とまで呼ばれている羽生善治氏が、2005年に出版したベストセラー。
以前から書店でよくピックアップされているのを見ていて良い本なのだろうなぁと思ってはいたが、改めて自身の現状を鑑みたとき、必読の本になるだろうと購入を決意。
この本では、以下の章に分かれて羽生氏の考えがまとめられている。
どの章でも思わず感嘆する一言があるので、そのポイントを共有したい。
- はじめに
- 第一章 勝機は誰にでもある
- 第二章 直感の七割は正しい
- 第三章 勝負に生かす「集中力」
- 第四章 「選ぶ」情報、「捨てる」情報
- 第五章 才能とは、継続できる情熱である
はじめに、の章では、1994年(平成六年)において名人戦を制した際の羽生氏の当時の心境が語られている。
1600年から続く名人戦、400年近く歴史があるその名人の称号を得た人物は、当時までで25名ほどしかいかなったという。
その名人の称号を得る対局の際で羽生氏は精神的に極限まで追い込まれたそうだ。
この経験があったからこそ、自身の分岐点になったと語る。
追い詰められた場所にこそ、大きな飛躍がある、と。
全ての章に、羽生氏の考えが集約されている。
それは将棋界に限ったことではなく、すべての物事において活かせる考え方である。
例えば、これは羽生氏の言葉ではなく、アメリカのロボット工学の権威者の言葉であるが、学生には「キス・アプローチでやれ!」というそうだ。
キス(KISS)とは「Keep it simple stupid」の略。もっと簡単にやれということ。
固定概念に縛られたり、昔からのやり方にとらわれずに単純に考えること。
これが重要で羽生氏も参考にしているそうだ。
また、知識は「知恵」に変えてこそ自分の力になることも語られている。
将棋には定跡という決まった型の組み方があり、この通りに組めばある程度の勝負ができる。
しかし、その定跡にも弱点もあり、そのまま真似ても一方的に崩されて終わりという経験を将棋経験者は必ずあるはずだ。
この定跡は、記憶するだけでは実践ではまるで役に立たないと羽生氏は語る。
自身でアイデアや判断を付け加えて、高いレベルに昇華させる必要があると。
知識をうまくかみ砕いて栄養にする感覚
この言葉に自分ははっとした。
覚えることが勉強ではなく、それを理解しマスターし、自家薬篭中のものにする過程が大事なのだと。
覚えればなんとかなる。だけでは駄目なのだ。
分解し理解し、それを自分のものにする過程が最も大切なのだ。
更に長年、これは自分が疑問に感じていたことであるが、コンピューターが段位を持った棋士達を倒せる時代となっている中で、何故羽生氏はトップを維持し続けることができるのか?
▼将棋電王戦FINAL | ニコニコ動画
その答えが本書にはあった。
当然長年における経験も影響はしているはずだが、羽生氏は以下のプロセスを日々繰り返しているそうだ。
おそらく常人では考えられないほどのスピードで。
- アイデアを思い浮かべる。
- それがうまくいくか細かく調べる。
- 実戦で実行する。
- 検証・反省する。
実戦でも体重が3キロは落ちると言われているのに、日々上記のプロセスを、初心者の時代から繰り返し行っているとのことだ。
特に「それがうまくいくか細かく調べる。」
これを日々実践できる人間は少ないと感じる。
特に細かく…がどこまでを指しているか不明だが、羽生氏は常に200~300手先まで読んでいるとの話もあり、想像しがたい境地であることは明白だ。
このプロセスを繰り返されることで培われた「知識」は、うまくかみ砕かれて「知恵」として昇華し、次の実戦へ生かすことができる。
どれだけ定跡を覚えたコンピューターでも、その知識を得た上位棋士達相手にも、羽生氏が勝てる理由はここにあるなと感じた。
誰でも最初は真似から物事を始める。
しかしそれをそっくり真似る、丸暗記しようとしても駄目だと羽生氏は語る。
どうしてその人がその航路をたどったのか、どういう過程でそこにたどり着いたのか、その過程を理解することが大切だと。
本書を読んだことで、どんな物事に取り組んでも、実戦を拒み、吸収することを拒み、石のように動かない自分がありありと浮かびあがってきた。
羽生氏のプロセスを生き方の指針として取り組んでいくことが今の自分には必要なのかもしれない。