有機農業の本来の形とは?
ふと、帰りの電車で思い立ち、スカイツリー内にある紀伊国屋に立ち寄る。
昨日訪問した林農業の代表、林重孝さんが語っていた「有機野菜の基準が危うい」といった話が気になったからだ。
ふとコーナーの本をぱらっとめくると、そのことについて触れている本がこれだったので思わず購入してみた。
本書自体は、山・海、里とそれぞれ異なる地域に生きる人々の、食に関する想いが綴られている一冊なのであるが、その中の一節がピンときた。
"やさい塾"を月に一度開催されている内田悟さんは
有機農法の現場やルールが乱れてきているのではと語っている。
それはいくつか理由がある。
- 堆肥作りを理論的に教えられるクールな農場指導者が少ない
- 積み上げられた経験を互いに共有できる仕組みや場も限られている
- 家畜糞がベースの堆肥で育つ野菜は硝酸態チッソだらけの悪い土になる
- JAS法改正による有機認証の基準の緩みにより、使用可能な農薬が増えた
これではせっかくの有機農法が名ばかりになってしまうと警鐘を鳴らす。
ここで昨日の見学会で、林さんが語っていたことを思い出す。
家畜糞ベースの堆肥の問題、JAS法改正による使用可能農薬の増加の問題だ。
見学会レポートでも記したが、家畜糞ベースだとどうしても病原菌を含んでいることが多く、病虫害発生の元となる。
更にJAS法改正による使用可能な農薬が増えたことにより、本来の有機農法の意味とは?とどうしても疑問に感じてしまう。
思えば、林さんはこう語っていた。
「別表」というものがあって、そこに有機JASで使用を認めているものが記載されているよと。
はじめての人の有機JAS企画(PDF)なる、農林水産省が提示している書を見つけたので、こちらを参照してみると…
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/hajimete-2601.pdf
ありました。「別表」。
しかも5つ。
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別表1 肥料及び土壌改良資材
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別表2 農薬
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別表3 種菌培養資材
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別表4 薬剤
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別表5 調製用等資材
おお…農薬の項とか、農薬のこと詳しくありませんがこんなに使用可能な農薬があるとは…。
確かにこれでは有機農業の基準ってなんだろう…と疑問に感じてしまうのも無理はない。
僕が昨日見た有機農法は、決して名ばかりではない本物の有機農法だった。
これは本当に幸運なことなのかもしれない。
林さんはこうも語っていた。
遠くに見える森の下地の色と畑の色が同じ色になったとき、自然な農業ができている証拠なのだと。
これからの農業のあり方について、再度深く考えてみたいと思う。
林農園様の見学会にお邪魔してきました。
本日は、千葉県佐倉市にある林農園様の見学会にお邪魔してきました。
林農園の作付面積は2.2ha、野菜・大豆・小麦など合計80品目、150品種に及び、平飼い(地面で育成すること)養鶏150羽を飼育されています。
初めは林農園様の代表、林重孝さんから、自身の食と農に関する考え方と取組みについてお話しいただきました。
林さんの根底にある考えは「有機栽培」。
農薬などを使用せず、自然のままに作物を育てることです。
この考えに至るまでには経緯があり、今でこそ林農園は大農家ですが、親の代ではヤマトイモ、サツマイモの2品目のみしか育てていなかったそうです。
当初はその品目の育成を親から引き継ぐ予定だったそうですが、商品として価値あるものとして売り出すために農薬を散布したり、発色剤を使用して赤くしたりすることに疑問を抱いたのだとか。
「このような農業は私が一生かけてする仕事ではない」と思い、就農して3年目に家からの農業を中断し、1年、埼玉県で先駆的に有機農業をしている農家に住み込みを開始。
1年で得たノウハウを持ち帰り、今の林農園に反映。
当初周りから反発を受けたそうですが、それでも信じて実践を重ね
5年後になってようやく目が出始めたそうです。
有機栽培を実現することは、生半可な努力では不可能です。
現在の日本では、有機栽培を行っている農家は全国で全体の0.4%ほどだとか。
はじめの取り組みは「堆肥」の改良。
土づくりを変えることから取り組んだそうです。
昔は動物の糞尿などを肥料として使ってきましたが、動物性は病原菌を含んでいることが多く、どうしても病虫害発生のもとになるそうです。
これを抑える取り組みが植物性の堆肥作りです。
ただ、農薬を使用しないということは、やはり害虫の発生は抑えられません。
そのまま放置していても安定した出荷などはできませんが、4、5年の年月をかけることで害虫を食べる天敵が発生し、害虫と天敵のバランスがよくなり、収穫量が徐々に増え始めてきたのだとか。
また、複数の野菜を列ごとに育成することによって、その野菜につく害虫が他の野菜の天敵であったりするので、バランスが取れるようになるとも。
混植という技術もあり、これは栃木のかんぴょうであれば、葱と一緒に植えるとかんぴょうの発育が非常に良いとされる、他の種を植えることによる相乗効果のことです。
何故良い影響が出るのか、これは科学的にも解明されているそうです。
有機栽培の取り組みで、林さんが意識して行っている取り組みまとめ。
- 植物質を原料とした堆肥作り
- 野菜は適期(旬)につくる
- 混植による、より良い野菜の育成
これは実際に「混植」している畑の様子。
当然管理も大変です。適期に収穫・育成する必要がある野菜はしっかり管理されていました。
種なども採れるものはすべて農園で採り、サイクルさせていく。
これがよりよい土壌を育てていく基盤となるのだとか。
これは冷蔵の蔵で醤油を作っている様子。
1日1度かき回す必要があるそうです。
ハウスもありますが、あくまで苗などの育成に限るもので、出荷するものは全て外で育成されています。
ちょっとぶれちゃってますが、鶏小屋です。
現在は100羽程度。鶏の餌は米ぬか、クズ麦、魚粉、牡蠣殻、グリッド(小石)だそうです。
トウモロコシは与えていないので、卵の色は「黄色」。
市販で売られているものは「オレンジ」と呼ばれているそうです。
これが「堆肥」です。
近くでみれば分かりますが全く臭くありません。
自分が知っている堆肥は糞臭くて近寄れたものではありませんでしたが、本当に植物だけで堆肥を作成されているのだなぁと感心しました。
上の写真は完全に発酵しているもので…
こちらの黒いほうが、これから発酵させる堆肥。
当然時間がかかりますが、良い肥料を作るということはそういうことなのだなぁと感じますね。
一度外を見て回った後、最後に質疑応答をして16時半頃、解散。
質疑応答も、様々な意見が出ました。
ガーデニングを趣味としていらっしゃる方の素朴な疑問、かなり専門的な質問をされている農業関係者の方にも丁寧に応えていた林さんは人徳が滲み出ていらっしゃいました。
まだ残っていた方も半分ほどいたような…僕も明日仕事が無ければ残りたかったんですけどね(汗)
帰りはもう暗く、近場のバス停も案内が無いとさっぱり分からない状態だったのですが、そこに車で送ってくれると親切な方が。
てっきり見学会の参加者かと思っていたのですが、実は関係者の方でした(汗)
その方は理科の教師をしていて、息子さんが林農園に研修生として働いている姿を見に来たとのこと。
農業に興味があるなら林さんの元で働くといいんじゃないと助言していただいたり、更に深く知りたければ農愛高校ってところがあるから、そこを見学しに行くと得られるものが間違いなくある…と。
ただ場所が三重県にあるそうなので、いつ行けるか不明ですが(汗)
一緒に車に乗っていた二組の夫婦も、これから農業を考えたいためにきたそうで、若いうちから農業のことを真剣に考えることは決して恥ではないし、むしろ高学歴な人達ほど就農する人が増えていると林さんは仰っていました。
また機会があれば訪れて、今度は更に深い話を伺いたいなと思います。
最後に…
外の見学でみんなの前に姿を現した、人懐こいネコちゃん。
かわゆすでした。
それでは~。
林農園様にお邪魔しに行ってきます。
今後の事を考え、本格的な野菜を生産されている農園を見学しに行こうと決意。
さっそく農園見学会を開催している農園を探してみると…
林農園 | 千葉県佐倉市にある有機栽培農園「林農園」のホームページです。有機野菜の配達・宅配を行っています。
千葉県佐倉市にある、林農園様を見つけました。
直感でさくっとエントリー。
すぐに返信をいただけて好印象。
片道電車で1時間、バスで1時間と少し慣れない旅となってしまいますが
有機野菜を生産されており、年間80品目150品種以上と大量の作物を生産されている林農園様の暮らしぶりを直接伺いたい気持ちがふつふつと。
写真も撮ってくる予定なので、帰ってきたら感想をまとめたいと思います。
それでは。
決断力 著:羽生善治
将棋界において生ける伝説とまで呼ばれている羽生善治氏が、2005年に出版したベストセラー。
以前から書店でよくピックアップされているのを見ていて良い本なのだろうなぁと思ってはいたが、改めて自身の現状を鑑みたとき、必読の本になるだろうと購入を決意。
この本では、以下の章に分かれて羽生氏の考えがまとめられている。
どの章でも思わず感嘆する一言があるので、そのポイントを共有したい。
- はじめに
- 第一章 勝機は誰にでもある
- 第二章 直感の七割は正しい
- 第三章 勝負に生かす「集中力」
- 第四章 「選ぶ」情報、「捨てる」情報
- 第五章 才能とは、継続できる情熱である
はじめに、の章では、1994年(平成六年)において名人戦を制した際の羽生氏の当時の心境が語られている。
1600年から続く名人戦、400年近く歴史があるその名人の称号を得た人物は、当時までで25名ほどしかいかなったという。
その名人の称号を得る対局の際で羽生氏は精神的に極限まで追い込まれたそうだ。
この経験があったからこそ、自身の分岐点になったと語る。
追い詰められた場所にこそ、大きな飛躍がある、と。
全ての章に、羽生氏の考えが集約されている。
それは将棋界に限ったことではなく、すべての物事において活かせる考え方である。
例えば、これは羽生氏の言葉ではなく、アメリカのロボット工学の権威者の言葉であるが、学生には「キス・アプローチでやれ!」というそうだ。
キス(KISS)とは「Keep it simple stupid」の略。もっと簡単にやれということ。
固定概念に縛られたり、昔からのやり方にとらわれずに単純に考えること。
これが重要で羽生氏も参考にしているそうだ。
また、知識は「知恵」に変えてこそ自分の力になることも語られている。
将棋には定跡という決まった型の組み方があり、この通りに組めばある程度の勝負ができる。
しかし、その定跡にも弱点もあり、そのまま真似ても一方的に崩されて終わりという経験を将棋経験者は必ずあるはずだ。
この定跡は、記憶するだけでは実践ではまるで役に立たないと羽生氏は語る。
自身でアイデアや判断を付け加えて、高いレベルに昇華させる必要があると。
知識をうまくかみ砕いて栄養にする感覚
この言葉に自分ははっとした。
覚えることが勉強ではなく、それを理解しマスターし、自家薬篭中のものにする過程が大事なのだと。
覚えればなんとかなる。だけでは駄目なのだ。
分解し理解し、それを自分のものにする過程が最も大切なのだ。
更に長年、これは自分が疑問に感じていたことであるが、コンピューターが段位を持った棋士達を倒せる時代となっている中で、何故羽生氏はトップを維持し続けることができるのか?
▼将棋電王戦FINAL | ニコニコ動画
その答えが本書にはあった。
当然長年における経験も影響はしているはずだが、羽生氏は以下のプロセスを日々繰り返しているそうだ。
おそらく常人では考えられないほどのスピードで。
- アイデアを思い浮かべる。
- それがうまくいくか細かく調べる。
- 実戦で実行する。
- 検証・反省する。
実戦でも体重が3キロは落ちると言われているのに、日々上記のプロセスを、初心者の時代から繰り返し行っているとのことだ。
特に「それがうまくいくか細かく調べる。」
これを日々実践できる人間は少ないと感じる。
特に細かく…がどこまでを指しているか不明だが、羽生氏は常に200~300手先まで読んでいるとの話もあり、想像しがたい境地であることは明白だ。
このプロセスを繰り返されることで培われた「知識」は、うまくかみ砕かれて「知恵」として昇華し、次の実戦へ生かすことができる。
どれだけ定跡を覚えたコンピューターでも、その知識を得た上位棋士達相手にも、羽生氏が勝てる理由はここにあるなと感じた。
誰でも最初は真似から物事を始める。
しかしそれをそっくり真似る、丸暗記しようとしても駄目だと羽生氏は語る。
どうしてその人がその航路をたどったのか、どういう過程でそこにたどり着いたのか、その過程を理解することが大切だと。
本書を読んだことで、どんな物事に取り組んでも、実戦を拒み、吸収することを拒み、石のように動かない自分がありありと浮かびあがってきた。
羽生氏のプロセスを生き方の指針として取り組んでいくことが今の自分には必要なのかもしれない。